国産材、バイオマス、公金依存の構造を数字から考える
最初に
「国産材を、これからどう普及させていくのか」
先日、そんな議題について考える機会がありました。
私たち一部の設計者には、世間で当たり前とされている前提を、いったん疑い、数字から再定義しようとするクセがあります。
そこで、ふと疑問が湧きました。
「国産材は、本当にそれほど使われていないのだろうか」
「住宅で国産材をもっと使えば、日本の山は循環するのだろうか」
「木材の伐採量を増やすことが、本当に林業を守ることになるのだろうか」
スギやヒノキの人工林面積、森林蓄積の増加量、実際の素材生産量、そして住宅の柱や土台に必要な木材量を比較してみると、一般に語られている「国産材は使われていない。だから、もっと伐って、もっと住宅に使えば山が再生する」という説明だけでは理解できない事実が見えてきました。
森林資源は増えています。
一方、住宅着工戸数は減少しています。
建築用材として必要とされる木材量には限界があり、それを超える木材の受け皿として、合板、チップ、木質バイオマス燃料などの用途が拡大しています。
しかし、燃料材やチップ材は一般に単価が低く、それを主力商品として、伐採、搬出、運搬、再造林までを市場収入だけで成立させることは容易ではありません。
そこで、伐採、搬出、路網整備、高性能林業機械、再造林、バイオマス発電など、さまざまな段階に公金が投入されます。
その結果、本来であれば需要減少に合わせて縮小するはずの伐採量や事業規模が、政策によって維持されている部分はないのでしょうか。
今回考えたいのは、国産材利用の是非だけではありません。
山を守ることと、現在の林業事業を守ることは、全く別の問題ではないか。
ということです。
まず、森林と木材需要の規模を整理する
今回使用する主要な数値は、次のとおりです。
| 区分 | 項目 | 数量・試算値 |
|---|---|---|
| 資源側 | 全国森林蓄積の年間純増 | 約6,000万m³前後 |
| 資源側 | 条件の良い上位20%相当 | 約1,200万m³という仮定値 |
| 生産側 | 2025年国産材素材供給量 | 約2,007万m³ |
| 生産側 | うち製材用 | 約1,208万m³ |
| 生産側 | うち合板等用 | 約427万m³ |
| 生産側 | うち木材チップ用 | 約372万m³ |
| 木材全体 | 2024年国内生産量 | 約3,481万m³ |
| 住宅側 | 地場工務店18万戸の柱・土台製品量 | 約99万m³ |
| 住宅側 | 上記製品に必要な丸太量 | 約198万m³ |
| 住宅側 | 上記製品に必要な伐採立木量 | 約233万m³ |
| 住宅側 | 厳しい条件を重ねた必要量 | 最大1,000万m³とは断定しない |
ここで、いくつか注意が必要です。
「全国森林蓄積の年間純増約6,000万m³」は、林野庁が公表した森林蓄積の差から求めた概算値です。
全国の森林蓄積は、2017年3月末の約52億4,000万m³から、2022年3月末には約55億6,000万m³へ増加しています。5年間で約3億2,000万m³、単純平均では年間約6,400万m³の純増です。林野庁「森林資源の現況」
これは、伐採や枯損などを差し引いた後に、森林蓄積が実際に増えた量を期間平均したものです。
そのまま毎年伐採できる量でも、すべてが経済的に利用できる木材でもありません。
また、「上位20%で約1,200万m³」という数値は、全国の純増量約6,000万m³の20%を単純に割り当てた試算上の仮定です。
実際には、道路条件、傾斜、所有関係、森林のまとまり、樹種、樹齢、径級、材質などによって成長量と利用可能性は異なります。
したがって、上位20%は林野庁の公式区分ではなく、「条件の良い森林に生産を集約した場合」を検討するためのシナリオです。
2025年の国産材素材供給量
2025年の国産材素材供給量は約2,007万m³でした。
その内訳は、概ね次のようになります。
| 用途 | 国産材素材供給量 | 構成比 |
|---|---|---|
| 製材用 | 約1,208万m³ | 約60% |
| 合板等用 | 約427万m³ | 約21% |
| 木材チップ用 | 約372万m³ | 約19% |
| 合計 | 約2,007万m³ | 100% |
これは農林水産省の2025年木材統計に基づく数値です。農林水産省「令和7年木材統計」
一方、2024年の国内木材生産量は約3,481万m³です。
こちらは製材、合板、パルプ・チップ等に使われる「用材」だけでなく、燃料材やしいたけ原木等を含み、丸太換算した木材需給表上の数値です。林野庁「令和6年(2024年)木材需給表」
したがって、約2,007万m³と約3,481万m³は、統計の対象範囲が異なります。
両者を足したり、その差をそのまま「余った木」や「過剰伐採量」と評価したりすることはできません。
ただし、2024年の国内生産量約3,481万m³のうち、燃料材の増加によって国内生産量全体が増えたという点は、現在の木材需要を考えるうえで重要です。
地場工務店18万戸で必要となる柱・土台量
全国の地場工務店が年間18万戸の木造住宅を建てると仮定します。
延床面積30~35坪程度の一般的な木造軸組住宅について、1戸当たりの柱と土台の製品材積を、次のように設定しました。
- 土台:約1.2m³
- 柱:約4.3m³
- 柱・土台合計:約5.5m³
18万戸すべての柱と土台を国産材にすると、必要な製品材積は、
5.5m³×18万戸
=約99万m³
となります。
製材歩留まりを50%とすると、必要な丸太量は、
99万m³÷50%
=約198万m³
です。
さらに、立木から丸太として搬出できる割合を85%とすると、必要な伐採立木量は、
198万m³÷85%
=約233万m³
となります。
| 段階 | 必要量 |
|---|---|
| 柱・土台の製品材積 | 約99万m³ |
| 製材に必要な丸太量 | 約198万m³ |
| 必要な伐採立木量 | 約233万m³ |
この約233万m³は、地場工務店18万戸の柱と土台をすべて国産材にするという、かなり高い採用条件での試算です。
すべての住宅需要を表した数値ではありません。大手住宅会社、分譲住宅、非住宅建築、造作材、内装材、家具、輸出などの需要は別に存在します。
しかし同時に、住宅の梁や桁にはベイマツ、国産マツ、集成材なども使われます。スギやヒノキだけで、柱、土台、梁、桁のすべてを置き換えられるわけでもありません。
スギやヒノキにも梁として使用できる大径材や高強度材は存在します。ただし、必要な断面、長さ、強度、乾燥状態を安定的にそろえることが難しく、流通量も限られます。
したがって、住宅で国産材を増やす余地はあっても、住宅の構造材需要だけで全国の森林資源を循環させることには、明確な量的限界があります。
「使い切れないから燃やす」という構造
建築用材として吸収できない木材の受け皿として、合板、製紙用チップ、木質バイオマス燃料などが利用されています。
製材工場から発生する端材、樹皮、おが粉、建築材に向かない曲がり材、枝や梢端部などを、チップや燃料として使うことには合理性があります。
これは、主製品を生産した結果として発生する副産物の有効利用です。
問題は、バイオマスやチップが副産物利用の範囲を超え、伐採を継続するための主たる需要になっていないかということです。
燃料材やチップ材は、柱、梁、土台、造作材などに比べて単価が低い商品です。
低価格の商品を大量に生産しても、伐採、集材、搬出、運搬、再造林までの費用を市場収入だけで回収できなければ、林業経営は成立しません。
それでも事業を継続するためには、公金が必要になります。
- 森林整備や間伐への補助
- 伐採・搬出への支援
- 林道・作業道整備
- 高性能林業機械の導入支援
- 再造林への補助
- 木材加工施設への支援
- FIT・FIP等によるバイオマス発電支援
こうした制度には、それぞれ防災、地域雇用、脱炭素、エネルギー確保、森林整備などの政策目的があります。
したがって、公金の投入を一律に否定するものではありません。
しかし、複数の支援制度を積み重ねることで、本来なら採算が合わず縮小するはずの伐採事業が維持されているとすれば、問題です。
伐採量を維持しても、林業者は豊かにならない
建築用材として売れない木を、安価なチップや燃料材として販売する。
その不足分を補助金で埋める。
この方法で伐採量や仕事量を維持しても、森林所有者の立木価格や、伐採作業者の労務単価が十分に上がるとは限りません。
むしろ、安い原料を大量供給する仕組みが維持されることで、
- 木材価格が上がらない
- 森林所有者に利益が残らない
- 作業者の労務単価も上がらない
- 再造林費を自力で確保できない
- 補助金がなければ事業が成立しない
- 機械の稼働を維持するため、さらに伐採が必要になる
という循環が固定化される可能性があります。
伐採量が増えたことと、林業が健全になったことは同じではありません。
国産材供給量が増えたことと、森林所有者や作業者の所得が増えたことも同じではありません。
バイオマス発電量が増えたことと、山が再生したことも同じではありません。
評価すべきなのは伐採量ではなく、伐採後に再造林費まで確保され、補助金なしでも次の森林経営につながる収益が残ったかどうかです。
需要が減れば、事業者も減る
住宅需要が減れば、必要な木材量も減少します。
木材需要が減れば、伐採量も減り、事業者の仕事も減ります。
その結果、採算の取れない事業者が廃業し、統合されることがあります。
厳しい現実ですが、これは経済の原理です。
あらゆる事業者の倒産を公金で防ぎ、現在の雇用、設備、機械台数、伐採量を維持し続けることはできません。
それを続ければ、市場から退出するはずだった供給能力が残り、供給過剰が解消されず、木材価格が低いままになります。
その低価格を補うために、さらに公金が必要になります。
つまり、
事業者を救済するための公金が、供給過剰と低価格を固定し、林業全体の自立を阻害している可能性がある。
ということです。
守るべきなのは、現在存在するすべての事業者ではありません。
将来も市場の中で成立できる林業経営と、国土として残すべき森林です。
木を伐らないことも、林業政策である
これまでの林業政策は、伐採量、素材生産量、国産材利用量、木材自給率などを重要な指標としてきました。
しかし、森林資源に対して建築需要が小さくなっているのであれば、伐採量を増やすことだけが正解ではありません。
伐採しないという選択も必要です。
需要に合わせて供給量を減らすことで、
- 採算の悪い森林から撤退する
- 生産条件の良い森林へ林業を集約する
- 過剰な木材供給を抑える
- 木材価格の下落圧力を弱める
- 建築材として価値のある木を安売りしない
- 再造林費まで確保できる伐採に限定する
- 熟練作業者に適正な単価を支払う
という方向へ転換できます。
ただし、伐採量を減らせば、自動的に木材価格や作業単価が上がるわけではありません。
輸入材や集成材との競争があり、流通・製材側の交渉力もあるからです。
そのため、伐採量の抑制と同時に、販売先を決めてから伐採する契約生産、最低労務単価、再造林費の事前確保、トレーサビリティなどの仕組みが必要になります。
山を守ることと、林業を守ることは別問題
ここで、最も重要な整理が必要です。
山を守ることと、木材生産業としての林業を守ることは、同じではありません。
木材を伐採して販売する林業は、原則として市場で成立する必要があります。
需要があり、伐採、搬出、運搬、再造林までの費用を木材価格で回収できる森林に、生産を集約すべきです。
一方、防災、水源涵養、土砂流出防止、生態系保全、道路や集落への倒木防止などは、木材販売とは別の公益的課題です。
こうした森林を管理するために公金を使うのであれば、それは赤字林業の補填ではなく、国土保全のための公共事業として明確に位置付けるべきです。
| 対象 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 採算の取れる木材生産 | 民間事業として実施 |
| 条件の良い生産林 | 集約化して継続 |
| 売れない木の伐採・搬出 | 原則として縮小 |
| バイオマス燃料確保だけを目的とする伐採 | 支援の妥当性を厳しく検証 |
| 赤字事業者の経営維持 | 公金投入の目的にしない |
| 集落・道路を守る危険木処理 | 防災事業として実施 |
| 土砂災害・流木対策 | 国土保全事業として実施 |
| 水源・生態系の保全 | 環境政策として実施 |
| 採算の取れない奥山 | 保全、天然更新、針広混交林化を検討 |
林業という産業を維持するために、必要のない木まで伐採するのでは本末転倒です。
木材生産として成立しない森林を公費で守る必要があるなら、「林業振興」ではなく「国土保全」として管理すべきです。
本当に検証すべきこと
現時点の全国統計だけでは、公金によって何m³の伐採が誘発されたのか、建築用に使える丸太が何m³燃料に流れたのかまでは分かりません。
したがって、「国内生産量と住宅需要との差は、すべて過剰伐採である」と断定することはできません。
しかし、次の項目を公開・検証する必要があります。
- バイオマス発電所が使用する木材のうち、丸太、林地残材、製材残材、輸入燃料がそれぞれ何%か
- 丸太を燃料にした場合、建築用に利用できなかった理由は何か
- 伐採から発電まで、どの段階にいくらの公金が投入されたか
- 補助金とFIT・FIP収入を除いても事業が成立するか
- 木材販売代金のうち、森林所有者と作業者にいくら残ったか
- 伐採後に再造林された面積と、その後の成林率
- 再造林まで含めた1ha当たりの最終収支
- バイオマス利用によって、地域の林業所得が実際に増加したか
- 補助事業がなかった場合にも、その伐採は実施されたか
これらが分からないまま、「国産材利用が増えた」「燃料材需要が増えた」「素材生産量が増えた」という数字だけで政策を評価することはできません。
結論
日本の森林蓄積は、期間平均で年間約6,000万m³前後のペースで純増しています。
一方、2025年の国産材素材供給量は約2,007万m³でした。
地場工務店18万戸の柱と土台をすべて国産材にするという試算でも、必要な製品材積は約99万m³、丸太量は約198万m³、伐採立木量は約233万m³です。
もちろん、木材には住宅の柱・土台以外にも多くの用途があります。そのため、この差をそのまま余剰や過剰伐採と呼ぶことはできません。
それでも、住宅需要を増やすだけで、全国の森林資源を経済的に循環させることが難しいのは明らかです。
建築用材として吸収できない木を、安価なバイオマス燃料やチップとして大量に消費しても、林業の収益性が改善するとは限りません。
販売価格で伐採、搬出、運搬、再造林までの費用を回収できず、その不足を公金で補っているのであれば、それは自立した林業とはいえません。
需要が減れば、供給量も事業者数も減少する。
それは厳しい現実ですが、経済の原理です。
採算の取れない事業者の倒産を防ぎ、現在の伐採量を維持すること自体を政策目的にしてはなりません。
必要なのは、生産条件の良い森林へ木材生産を集約し、再造林費まで回収できる価格で売れる木だけを伐採することです。
建築材として使える木は、建築材として長く使う。
燃料利用は、製材端材、林地残材、建築材として利用できない低質材を基本とする。
市場で成立しない伐採を、公金によって無理に成立させない。
そして、木材生産として採算が取れなくても、防災や水源涵養のために守る必要がある森林には、「林業振興」ではなく「国土保全」として公金を投入する。
守るべきものを混同してはいけません。
山を守ることと、現在の林業事業を守ることは、全く別の問題です。
守るべきなのは、現在の伐採量でも、すべての林業事業者でもありません。
守るべきなのは森林であり、公金への依存を縮小しても成立できる林業です。
国産材を何m³使ったかではなく、その伐採が本当に山の再生と林業者の所得につながったのか。
今こそ、その実態を数字で検証する必要があります。
※全国森林蓄積の年間純増約6,000万m³は、2017年と2022年の森林蓄積の差を5年間で除した概算値です。特定年度の総成長量や伐採可能量を示すものではありません。
※上位20%、約1,200万m³は、全国森林蓄積の純増量の20%を機械的に割り当てた試算上の仮定です。林野庁の公式な森林区分ではありません。
※2025年国産材素材供給量約2,007万m³と、2024年国内生産量約3,481万m³は、対象とする木材の範囲と統計年が異なります。両者は単純比較・加算できません。
※住宅1戸当たりの柱・土台量、製材歩留まり、立木から丸太への搬出率および地場工務店18万戸は、本稿で設定した試算条件です。
※公金投入と特定の伐採との因果関係を確定するには、発電所・地域・補助事業ごとの燃料調達量、細分、価格、補助額、再造林実績等の検証が必要です。
