最初に
「国産材を、これからどう普及させていくのか」
先日、そんな議題について考える機会がありました。
ちょうど最近、CHATの調査・分析能力が爆発的に向上したこともあり、一度、国産材をめぐる数字を根本から確認してみることにしました。
私たち一部の設計者には、世間で当たり前とされている前提を、いったん疑って再定義しようとするクセがあります。
そこで、ふと疑問が湧きました。
「国産材は、本当にそれほど使われていないのだろうか」
「住宅で国産材をもっと使えば、日本の山は循環するのだろうか」
スギやヒノキの人工林面積、年間成長量、実際の素材生産量、そして住宅の柱や土台に必要な木材量を、一つずつ数字で比較してみました。
すると、一般に語られている「国産材は使われていないから、もっと住宅に使えば山が再生する」という理解だけでは説明できない、意外な事実にぶつかりました。
国産材の問題は、単なる利用不足ではないのではないか。
むしろ、山で増え続ける資源量と、住宅が必要とする木材量との間に、想像以上に大きな隔たりがあるのではないか。
世間一般の理解と、実際の数字には、かなりの乖離があるように感じます。
そこで今回は、感覚論や「国産材を使おう」という掛け声から少し離れ、ヒノキに続いて、スギの供給力と住宅需要を整理してみることにしました。
今回はスギです。
スギ人工林の成長量と、工務店住宅の柱・土台需要を比較する
日本の人工林で、最も面積が大きい樹種がスギです。
林野庁の資料によると、全国のスギ人工林は約441万ヘクタールあります。一方、2023年のスギ素材生産量は約1,192万立方メートルでした。
これだけのスギ資源を、住宅の柱や土台でどこまで使うことができるのでしょうか。
今回は、全国の地場工務店が年間18万戸の木造住宅を建てると仮定し、その住宅でスギを最大限採用した場合の需要量を試算します。
スギは主に柱に使われる
木造住宅において、スギは柱、間柱、下地材、板材などに広く使われています。
一方、土台にはヒノキ、ヒバ、防腐・防蟻処理材などが使われることが多く、無処理のスギを土台に使用するケースは一般的とはいえません。
スギでも、保存処理や防腐・防蟻措置によって必要な性能を確保すれば、土台に使用できる場合があります。
ただし、今回の「スギ土台100%」は現実的な普及予測ではありません。スギ需要の理論的な上限を確認するための仮定です。
そこで今回は、次のケースを検討します。
- 柱の50%をスギにする場合
- 柱を100%スギにする場合
- 土台100%、柱50%をスギにする場合
- 柱と土台を100%スギにする理論的な最大需要
住宅1戸当たりの柱・土台量
延床面積30~35坪程度の一般的な木造軸組住宅を想定します。
1戸当たりの製品材積を次のように設定しました。
| 部材 | 1戸当たりの製品材積 |
|---|---|
| 土台 | 約1.0~1.5m³ |
| 柱 | 約3.5~5.0m³ |
| 柱・土台合計 | 約4.5~6.5m³ |
計算上の中心値は、
- 土台:1.2立方メートル
- 柱:4.3立方メートル
とします。
また、丸太から乾燥・仕上げ製品までの歩留まりを50%、立木から丸太として搬出できる割合を85%として計算します。
柱の50%をスギにした場合
1戸当たりの柱は4.3立方メートルです。
その50%をスギにすると、
4.3立方メートル×50%
=2.15立方メートル
となります。
年間18万戸では、
2.15立方メートル×18万戸
=約38.7万立方メートル
のスギ柱が必要です。
製材歩留まりを50%とすると、必要なスギ丸太は、
38.7万立方メートル÷50%
=約77.4万立方メートル
です。
さらに、立木から丸太として搬出できる割合を85%とすると、必要な伐採立木量は、
77.4万立方メートル÷85%
=約91.1万立方メートル
になります。
したがって、地場工務店18万戸の柱の半分をスギにするために必要な量は、
製品材積:約39万m³
丸太材積:約77万m³
伐採立木量:約91万m³
となります。
柱を100%スギにした場合
次に、地場工務店18万戸の柱をすべてスギにします。
1戸当たりの柱を4.3立方メートルとすると、必要なスギ製品は、
4.3立方メートル×18万戸
=約77.4万立方メートル
です。
丸太に換算すると、
77.4万立方メートル÷50%
=約154.8万立方メートル
となります。
伐採立木量に換算すると、
154.8万立方メートル÷85%
=約182.1万立方メートル
です。
したがって、柱を100%スギにした場合の中心値は、
製品材積:約77万m³
丸太材積:約155万m³
伐採立木量:約182万m³
となります。
住宅規模、製材歩留まり、搬出率の違いを考慮すると、必要な伐採立木量は年間約130万~250万立方メートル程度です。
土台を100%スギにした場合
スギを土台に使用するケースは一般的ではありませんが、理論上の需要量を確認するために計算します。
1戸当たりの土台を1.2立方メートルとすると、年間18万戸に必要なスギ製品は、
1.2立方メートル×18万戸
=約21.6万立方メートル
です。
丸太に換算すると、
21.6万立方メートル÷50%
=約43.2万立方メートル
です。
伐採立木量に換算すると、
43.2万立方メートル÷85%
=約50.8万立方メートル
になります。
したがって、全国の地場工務店18万戸の土台をすべてスギにした場合は、
製品材積:約22万m³
丸太材積:約43万m³
伐採立木量:約51万m³
となります。
柱と土台を100%スギにした場合
理論上の最大需要として、柱と土台の両方をすべてスギにした場合も計算します。
1戸当たりの柱と土台の合計は5.5立方メートルです。
年間18万戸では、
5.5立方メートル×18万戸
=約99万立方メートル
のスギ製品が必要です。
丸太に換算すると、
99万立方メートル÷50%
=約198万立方メートル
です。
伐採立木量に換算すると、
198万立方メートル÷85%
=約233万立方メートル
になります。
ケース別の結果をまとめると、次のようになります。
| スギ採用条件 | 製品材積 | 丸太材積 | 伐採立木量 |
|---|---|---|---|
| 土台100% | 約22万m³ | 約43万m³ | 約51万m³ |
| 柱50% | 約39万m³ | 約77万m³ | 約91万m³ |
| 柱100% | 約77万m³ | 約155万m³ | 約182万m³ |
| 土台100%・柱50% | 約60万m³ | 約121万m³ | 約142万m³ |
| 柱・土台100% | 約99万m³ | 約198万m³ | 約233万m³ |
柱と土台をすべてスギにするケースは、実際の住宅仕様としては限定的です。
したがって、約233万立方メートルは現実の需要予測ではなく、地場工務店18万戸における理論的な上限です。

梁や桁にはスギ以外の木材も使われる
住宅の構造材には、柱と土台のほかに、梁や桁などの横架材があります。
梁・桁には、ベイマツ、アカマツ、カラマツ、欧州アカマツ系集成材などが多く使われています。
梁には、建物の荷重を横方向に受けながら、たわみにくい性能が必要です。そのため、比較的ヤング係数が高く、長尺・大断面を確保しやすいマツ類が適しています。
スギも、構造計算によって必要な強度と断面を確保すれば、梁として使用できます。
しかし、一般的にスギはマツ類よりヤング係数が低いため、同じ長さと荷重に対応するには、梁せいを大きくしなければならない場合があります。
また、日本の山にスギが大量に存在することと、住宅の梁として使えるスギ材を安定して供給できることは別問題です。
梁には、柱よりも太く、長く、曲がりの少ない材が必要です。さらに、一定以上の強度、適切な乾燥状態、必要な断面寸法を揃えなければなりません。
実際には、次のような制約があります。
- 必要な長さを確保できる通直な原木が限られる
- 節、曲がり、割れなどによって梁材に適さない場合がある
- 必要なヤング係数を満たす材の強度選別が必要になる
- 大断面材ほど芯まで乾燥させることが難しい
- 長尺・大断面材を製材、乾燥できる工場が限られる
- 必要な寸法と品質を必要な本数だけ揃える流通体制が十分ではない
- 山に適材があっても、道路条件によって搬出費が高くなる
つまり、
スギは山に大量にあるが、梁として必要な寸法、長さ、強度、乾燥状態を満たす製品を、適正な価格で安定供給できるとは限らない
ということです。
今回の需要試算では、全国の住宅で比較的共通して使われる柱と土台を対象とします。梁や桁に利用できるスギの量は、別途、品質や強度、製材・乾燥設備を含めて検討する必要があります。
現在のスギ素材生産量との比較
2023年のスギ素材生産量は約1,192万立方メートルです。
これに対して、柱の半分をスギにした場合に必要な丸太は約77万立方メートルです。
現在の素材生産量に対する割合は、
77万立方メートル÷1,192万立方メートル
=約6%
です。
柱を100%スギにした場合に必要な丸太は約155万立方メートルです。
これは現在の素材生産量の約13%に相当します。
通常はスギの採用が限定される土台まで100%スギにしても、必要な丸太は約198万立方メートルです。
これは現在の素材生産量の約17%です。
| 比較項目 | 数量 | 素材生産量に対する割合 |
|---|---|---|
| 現在のスギ素材生産量 | 約1,192万m³ | 100% |
| 柱50%の必要丸太 | 約77万m³ | 約6% |
| 柱100%の必要丸太 | 約155万m³ | 約13% |
| 柱・土台100%の必要丸太 | 約198万m³ | 約17% |
この比較から、地場工務店18万戸の柱をすべてスギにしても、現在のスギ素材生産量の約13%しか使用しないことが分かります。
柱と土台のすべてをスギにする理論最大でも、約17%にとどまります。
ただし、その差をそのまま「余剰」や「過剰伐採」と呼ぶことはできません。
スギは住宅の柱・土台以外にも、梁、桁、間柱、板材、合板、集成材、非住宅建築、梱包材、木材チップ、輸出などに使われているためです。
スギ人工林の年間成長量
む全国平均の年間成長量を、1ヘクタール当たり5~8立方メートルとして概算すると、
441万ヘクタール×5~8立方メートル
=約2,205万~3,528万立方メートル
となります。
報告上は、
スギ人工林の年間成長量:約2,200万~3,500万m³
中心値:約2,800万m³
と考えるのが妥当です。
これは、山に立っているスギの材積が増える量です。そのすべてを経済的に伐採・搬出できるわけではありません。
条件の良い人工林を上位20%と仮定する
スギ人工林441万ヘクタールの20%は、約88万ヘクタールです。
その成長量を1ヘクタール当たり年間5~8立方メートルとすると、
88万ヘクタール×5~8立方メートル
=約440万~700万立方メートル
となります。
一方、地場工務店18万戸について、柱を100%スギにした場合に必要な伐採立木量は、年間約182万立方メートルです。
さらに、通常は採用例の少ない土台まで含め、柱と土台の両方を100%スギにした場合に必要な伐採立木量は、年間約233万立方メートルです。
比較すると、次のようになります。
| 比較項目 | 年間数量 |
|---|---|
| 上位20%のスギ林の推定成長量 | 約440万~700万m³ |
| 柱50%の必要伐採立木量 | 約91万m³ |
| 柱100%の必要伐採立木量 | 約182万m³ |
| 土台100%・柱100%の必要伐採立木量 | 約233万m³ |
柱を100%スギにしても、必要な伐採立木量は約182万立方メートルです。
これは、上位20%のスギ人工林における推定成長量の低い側、約440万立方メートルの半分以下です。
さらに、柱と土台をすべてスギにする理論最大でも、必要量は約233万立方メートルです。
したがって、単純な数量比較では、
条件の良い上位20%のスギ人工林が毎年成長する量だけで、地場工務店18万戸の柱・土台をすべてスギにする理論最大需要まで賄える
という計算になります。
ただし、「上位20%」は林野庁の公式な森林区分ではありません。
道路条件、傾斜、森林のまとまりなどに優れた利用可能林を、スギ人工林面積の20%と仮定したシナリオです。
また、上位20%の森林で成長するすべてのスギが、柱や土台に使用できるわけではありません。
径級、長さ、曲がり、節、腐れ、強度などによって、柱や土台に向かない材も含まれます。
伐採時期、所有関係、路網、製材能力、乾燥能力などの制約もあります。
それでも、スギの場合はヒノキ以上に、条件の良い一部の人工林だけで住宅需要を供給できる可能性が高いと考えられます。
結論
地場工務店18万戸について、柱の半分をスギにした場合に必要な伐採立木量は、年間約91万立方メートルです。
柱を100%スギにした場合でも、必要な伐採立木量は年間約182万立方メートルです。
通常は採用例の少ない土台まで含め、柱と土台をすべてスギにする理論上の最大需要でも、必要な伐採立木量は年間約233万立方メートルです。
一方、全国のスギ人工林約441万ヘクタールの年間成長量は、概算で約2,200万~3,500万立方メートルあります。
さらに、道路、傾斜、森林のまとまりなどの生産条件が良いスギ人工林を上位20%、約88万ヘクタールと仮定すると、その年間成長量は約440万~700万立方メートルと推定されます。
比較すると、次のようになります。
| 比較項目 | 年間数量 |
|---|---|
| スギ人工林全体の推定成長量 | 約2,200万~3,500万m³ |
| 上位20%の推定成長量 | 約440万~700万m³ |
| 柱50%の必要伐採立木量 | 約91万m³ |
| 柱100%の必要伐採立木量 | 約182万m³ |
| 土台100%・柱100%の必要伐採立木量 | 約233万m³ |
柱と土台をすべてスギにするという非現実的な最大需要を設定しても、必要な伐採立木量は、上位20%のスギ人工林の推定成長量を下回ります。
また、現在のスギ素材生産量約1,192万立方メートルと比較しても、柱と土台の100%スギ化に必要な丸太約198万立方メートルは、その約17%にすぎません。
このことから、全国のスギ人工林すべてを住宅用材の生産林として維持する必要がないことが分かります。
住宅の柱・土台需要だけで、全国のスギ人工林を経済的に循環させることは困難です。
梁や桁までスギの利用を広げる余地はありますが、山にスギが大量にあることと、梁として必要な長さ、断面、強度、乾燥状態を備えた製品を安定供給できることは別問題です。
これから必要なのは、スギを無差別に伐採することではありません。
生産条件が良く、必要な品質の材を適正な費用で供給できる森林に木材生産を集約することです。
それ以外のスギ林については、防災、環境保全、針広混交林化、自然林への移行を含めた別の管理体系へ切り替える必要があります。
スギを大量消費することよりも、どの山を木材生産林として残し、どの山を国土保全のために管理するのかを選ぶことが重要になっています。
※基礎資料:林野庁「森林・林業白書」、林野庁「森林資源の現況」
※住宅1戸当たりの部材量、製材歩留まり、搬出率、人工林の年間成長量および上位20%の成長量は、本稿で設定した試算条件です。
※「上位20%」は林野庁の公式な森林区分ではありません。道路条件、傾斜、集約性などに優れた利用可能林を、スギ人工林面積の20%と仮定したシナリオです。
